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2024.09.24 税務コラム
富裕層はなぜ投資をするのか/税務コラム〜[vol.003]
富裕層の確定申告書を見たり、富裕層の税務調査を行ったりすると、富裕層にはある共通する特徴があることがわかります。それは、投資をしているということです。
富裕層とは
富裕層に明確な定義はありませんが、一般的に金融資産が1億円以上の世帯のことを指します。
5億円以上の世帯を超富裕層と呼ぶこともありますが、本コラムでは富裕層に含めて考えてもらえればと思います。
富裕層は時間、経験に投資する
富裕層は金融資産と不動産に投資をして、そこから得られるお金で時間や経験を買っています。
「時間を買う」とは、例えば、通勤時間の例があります。お金を出してでも、利便性が近い場所に住むことによって、通勤時間を減らして、時間を節約しています。その節約した時間を他のことに利用しています。
「経験を買う」とは、例えば、子供への教育(習い事)、旅行にお金を出し惜しみしません。子供にとって将来、役に立つと信じており、お金には変えられない体験が旅行にはあるからでないでしょうか。
一方で、富裕層は、ブランド品や高級品を買い贅沢な生活をしているイメージがありますが、私が税務調査で見た富裕層は、質素な生活を送っている人の方が多いです。必要最低限の出費で抑え、決して無駄遣いはしていません。我々の富裕層のイメージとは異なるのかもしれません。
富裕層は金融資産に投資する
富裕層は、必ずといってよいほど、株式等の金融資産に投資をしています。彼らはなぜ金融資産に投資をするのでしょうか。
富裕層は、株式等を保有することによって得られるインカムゲインである配当、時間の経過とともに得られるキャピタルゲインである株式の値上り益を期待しているからです。自分が働かずして得られる、いわゆる不労所得です。
そして、上場株式に係る配当や株式の譲渡益である金融所得は、税率20%の分離課税によって、給与所得、事業所得等の総合課税とは別に課税されることも理由です。
所得税の税率は7段階になっており、最高税率が45%であり、地方税を含めると55%に達します。半分が税金で消えて行ってしまうのです。
所得税率
「1億円の壁」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。
所得税の税率を考えると、所得金額が大きい人ほど税負担が重いだろうと思われますが、実際の所得税の負担税率を計算してみると異なった結果になっています。所得金額が1億円を境に所得税の負担率が下がっているのです。
内閣府(税制調査会)令和4年10月18日「第19回 税制調査会資料」
上場株式に係る配当や株式の譲渡益である金融所得は、所得金額に関係なく税率が一律20%であるため、給与所得よりも金融所得が多くなるに連れて、所得税が抑えられます。
所得金額が1億円を超える人の所得の内訳を見ると、上場株式等の譲渡所得等が14.4%と給与所得19.3%に引けをとらない割合になっています。
金融所得課税は富裕層に有利になっており、経済的な格差が広がるとして、税制改正の項目として取り上げられています。
更には、お金で持っているよりも、株式を相続した方が、相続財産の評価額を押し下げることができ、相続税の税金対策につながります。
富裕層は不動産に投資する
金融資産の投資と同様に、富裕層は不動産に投資をしています。彼らはなぜ不動産に投資をするのでしょうか。
富裕層は、不動産を貸し付けることによって得られるインカムゲインである家賃、時間の経過とともに得られるキャピタルゲインである不動産の値上り益を期待しているからです。金融資産の投資と同様に、こちらも不労所得になります。
そして、不動産所得は給与所得、事業所得等と同じ総合課税であり、不動産所得のマイナスを本業の給与所得、事業所得等と通算すること、いわゆる損益通算によって、給与所得に係る税金還付を受ける、あるいは総所得を抑えることができます。
不動産所得の申告の中で最も大きな経費は、減価償却費です。高所得者である富裕層が節税のために、投資をしている不動産はアパートやマンションです。特に、アパートの耐用年数は22年であり、22年を経過したアパートの耐用年数は、わずか4年(=22年×0.2)です。4年という短期間で減価償却費を計上することによって不動産所得がマイナスになります。
不動産所得がマイナスで損益通算にならないとしても、手元に家賃が入ってきているにもかかわらず、わずかな課税で済むという状態も不動産投資の恩恵を受けていることになります。
減価償却費を全て計上してしまうと、不動産を譲渡する際の譲渡原価がなくなり、課税されてしまうのではないかと思われるかもしれません。しかし、保有期間が5年を超えると譲渡所得の税率が40%から20%に軽減されます。
更には、金融資産の投資と同じですが、お金で持っているよりも、不動産を相続した方が、相続財産の評価額を押し下げることができ、相続税の税金対策につながります。貸付けを行っている不動産の評価額は更に低くなります。
富裕層は会社に投資する
「金持ち父さん 貧乏父さん」という書籍をご存知でしょうか。富裕層には投資家以外にもオーナー、会社経営者がいることが紹介されています。富裕層は、株主として会社に出資するとともに、役員として経営に関わっていることが多いです。
株主は、会社の業績が好調であれば、配当を受け取ることができます。同族会社の株主は少数であるため、頑張った分だけ配当を得ることができますし、将来の株式の値上がり利益も期待することができます。
役員は、事業の方針を決定し、会社を管理、監督する立場におり、報酬も高額になります。従業員と異なり、労務の対価ではなく、委任契約に基づき報酬が支払われます。そして、役員報酬は法人の費用になる上、給与所得控除(概算経費)が受けられるため、税金を考えてもメリットがあるわけです。
また、富裕層が、従業員として現場で働かずに、株主として会社に出資、あるいは、役員として経営に関与することは、いかにして時間をかけずにお金を得るかということを考えた結果であるとも言えます。
監修者プロフィール
川口 誠(カワグチ マコト)
国税局では高度な調査力が必要とされる調査部において、10年以上にわたって上場企業や外国法人等の税務調査に従事する。また、国税庁においては、全国の国税局にある調査部の監理・監督を行い、国税組織の事務運営にも携わる。
略歴
平成24~28年 東京国税局 調査第四部各調査部門、調査第一部調査管理課
平成29~30年 国税庁 調査査察部 調査課
令和元~5年 東京国税局 調査第一部 国際調査課、国際調査管理課、広域情報管理課
令和6年 ON税理士法人と業務提携
実績
中小企業から上場企業等まで100以上の会社の税務調査を行う。
メディア・著書
「元国税の不動産専門税理士が教える!不動産投資 節税の教科書(仮)」(9月出版予定)
資格・免許
税理士
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