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2025.04.24 税務コラム
税務調査における質問応答記録書とその対応/税務コラム〜[vol.014]

それほど多くはありませんが、税務調査では調査官が質問応答記録書を作成することがあります。いざ質問応答記録書の作成に遭遇すると、慣れていないこともあり慌ててしまいますが、慎重に対応したいところです。
CONTENTS
質問応答記録書とは何か
質問応答記録書は、名前の通り、調査官の質問に対する納税者の回答が記録された書類になります(この形式を問答形式と呼んでおり、大半がこの形式によって作成されますが、質問応答記録書は納税者が一方的に話す物語形式で作成されることもあります。)。
なぜ質問応答記録書を作成するのでしょうか。
質問応答記録書は、回答者である納税者等の供述を証拠化するために作成されます。回答者は個人になりますので、法人は代表者が中心になります。取引先や役員、従業員を対象として作成されることもあります。
少し難しい言葉になりますが、質問応答記録書では課税要件(納税義務が成立するための要件)に該当する具体的事実の存在を明らかにします。この要件は、主に納税義務者、課税物件、課税物件の帰属、課税標準、税率の5つが挙げられます。課税物件は、課税の対象となる物・行為・事実を言い、法人税であれば所得金額であり、何に対して税金をかけるのかを指します。
書類等の物的証拠のみでは課税要件が充足されないこともあり、質問応答記録書が必要になってきます。動機、経緯等を文章に起こすことで証拠の信用性が高まることにも繋がります。
法人の税務調査ではどういった場合に質問応答記録書が作成されるのか
質問応答記録書は全ての税務調査で作成されるわけではありません。
基本的には、仮装や隠ぺいの事実があるような事案で作成されることが多いです。国税庁が作成している職員向けの「質問応答記録書作成の手引き」には事例が掲載されており、法人を対象としたものとしては以下の内容になっています。
・売上除外
・架空外注費
・架空人件費
・水増し仕入
・棚卸除外
税務署の調査では、仮装や隠ぺいの事実がなく、重加算税を賦課しないような事案までは質問応答記録書を作成することは少ないです。ただ、このような事案以外でも、税務調査において将来的に審判所や裁判所で争訟となると見込まれるような事案では質問応答記録書を作成します。特に、上場企業のような大企業を調査している国税局調査部では、調査担当部署のみならず、審理担当部署も含めて、どういった質問応答記録書であれば争訟に耐えられるのかを検討して、作成されることになります。
質問応答記録書の入手方法(コピーはもらえるのか)
質問応答記録書は行政文書になりますので、税務調査で調査官にコピーをお願いしても拒まれます。税務調査で質問され回答したからと言っても記憶は曖昧になっているはずです。質問応答記録書を入手し、しっかりと内容を検討したいところです。
後日、質問応答記録のコピーを入手する方法があります。質問応答記録書の回答者は個人になりますので、その個人が税務署に個人情報の開示請求を行うことです。わずか300円の手数料で開示請求することができます。黒塗りされる部分もありますが、基本的には、印影を除いて開示されるはずです。印影は不正に利用される恐れがあるからだそうです。結果的に、調査官からコピーを受け取るのと何ら変わらない状態で質問応答記録書を入手することができます。
税務調査における質問応答記録書の内容の検討
調査官には質問検査権があるので納税者が回答を拒むことはできません。ただ、調査官が質問してくること以外について積極的に回答する必要はありませんし、依頼された資料以外の資料を積極的に提示する必要もありません。
一人の調査官が作成する質問応答記録書の件数は多くなく、不慣れな状態で作成していることが少なくありませんので、しっかと検討したいところです。質問応答記録書を作成するには相当の時間を要し、効率的な税務調査に支障をきたすことも理由です。
最も大切なことは、質問応答記録書に事実が記載されているかどうかということです。客観的な証拠から事実が記載されているかどうかを確認することにつきます。事実を文章に起こすことは、簡単なようで簡単ではありません。ましてや、事実を知っているのは回答者である納税者で、調査官は税務調査を通じて知ることから始めるわけです。調査官が全ての事実を知らない状態で質問応答記録書を書いているケースがあるということです。「質問応答記録書作成の手引き」には、①誰が、②いつ、③どこで、④誰と、⑤何を、⑥なぜ、⑦どのようにしたかを記載することによって、事実認定を行うように示されています。
他には、誘導やイエス・ノーによる質問は、本来はわからないという回答があるにもかかわらず、調査官の意図している方向に導いているような回答が作成されていることがあるため注意が必要です。そして、評価そのもの、例えば、「架空」といった用語を記載すると、それは調査官の評価であるため、その前提となる事実関係が記載されていないとおかしいことになります。
これらは、税務調査が終わって争訟の段階で、質問応答記録書の証拠の信用性に影響してきます。裁決事例で「質問応答記録書」と検索すると、質問応答記録書の違法や無効を主張している裁決を目にしますが、主張は認められない傾向にあります。しかし、一方で質問応答記録書の信用性を疑われた裁決もありますので、質問応答記録書の内容を検討することが大切になってきます。
質問応答記録書に署名(押印)はすべきか
質問応答記録書の最後には署名が求められますが、署名をするかどうかについては両方の意見があります。
個人的な意見としては、質問応答記録書に事実が記載されているようでしたら、署名しても差し支えないと考えています。なぜなら、署名を拒否した場合であっても、その理由が求められますし、「回答者に誤りのないことを確認し」という文言が質問応答記録書の文末に記載されるため、証拠としての採用が否定されるわけではないからです。「質問応答記録書作成の手引き」には、「回答者の署名がない質問応答記録書であっても、争訟となった場合の証拠となる」と記載されています。繰り返しになりますが、それよりも大切なことは、質問応答記録書に事実が記載されているかどうかです。

監修者プロフィール
川口 誠(カワグチ マコト)
国税局では高度な調査力が必要とされる調査部において、10年以上にわたって上場企業や外国法人等の税務調査に従事する。また、国税庁においては、全国の国税局にある調査部の監理・監督を行い、国税組織の事務運営にも携わる。
略歴
平成24~28年 東京国税局 調査第四部各調査部門、調査第一部調査管理課
平成29~30年 国税庁 調査査察部 調査課
令和元~5年 東京国税局 調査第一部 国際調査課、国際調査管理課、広域情報管理課
令和6年 ON税理士法人と業務提携
実績
中小企業から上場企業等まで100以上の会社の税務調査を行う。
メディア・著書
「元国税の不動産専門税理士が教える!不動産投資 節税の教科書」
資格・免許
税理士
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