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2025.08.08 税務コラム
同族会社の税務リスクを回避!「同族会社の行為計算否認」の対策/税務コラム~[vol.019]

同族会社が不当な方法で税金を減らそうとする行為は、「同族会社の行為計算否認」として税務署に否認される可能性があります。この制度は、所得税法、法人税法、相続税法に規定されており、経営者と親族で構成される同族会社特有の取引に着目し、税負担の公平性を保つことを目的としています。
「同族会社の行為計算否認」の概要から適用要件、そして税目ごとの具体的な判例を交えながら、どのような行為に適用されるのかを解説します。税務調査で指摘を受けないために、同族会社が注意すべきポイントもご紹介します。
CONTENTS
「同族会社の行為計算否認」とは
「同族会社の行為計算否認」は、同族会社が税金の負担を不当に減らす目的で行ったと認められる行為や計算を、税務署長が否認し、本来あるべき税額を計算し直すことができる制度です。所得税法第157条、法人税法第132条、相続税法第64条に規定されています。
「同族会社の行為計算否認」が設けられている理由
同族会社(経営者と親族などが会社の株式の過半数を保有している会社)では、親族間での取引や、会社と役員個人の間の取引など、通常の会社では考えられないような取引が行われ、それが税金逃れにつながる可能性があります。
「同族会社の行為計算否認」は、そのような不当な租税回避行為を防止し、公平な税負担を実現するために設けられています。
「同族会社の行為計算否認」の適用要件
「同族会社の行為計算否認」が適用される要件は以下の通りです。
①対象が同族会社であること
一般的に、株主等の3人以下及びこれらの同族関係者が有する株式総数または出資金額の合計額が、その会社の発行済株式の総数または出資金額の50%以上に相当する会社を指します。
②同族会社の行為または計算であること
同族会社と株主・役員・親族などの間で、一般的な商慣習から逸脱した不合理かつ不自然な取引(例えば、役員報酬の異常な高額設定、相場と乖離した不動産取引など)が行われた場合などが該当します。
③同族会社または株主等の税負担を「不当に減少させる」結果になること
「不当に減少させる」とは、その行為や計算が経済的合理性を欠き、租税回避以外に正当な理由や事業目的が存在しないと認められる場合を指します。
これが最も重要で解釈が難しい要件になります。単に税負担が減少するだけでなく、不当に減少させるという「不当性」が求められ、主に以下の観点から判断されます。
経済的合理性の欠如(不合理・不自然な行為) | ・取引が通常の独立当事者間取引と比較して異常 ・事業目的や正当な理由が存在せず、専ら租税回避目的と認められる |
個別税法の制度趣旨に反する行為 | 個別の税法規定(例えば、組織再編税制や役員給与の損金算入規定など)を租税回避の手段として濫用し、その規定の趣旨や目的に反する形で税負担を減少 |
税負担の減少額の大きさ | 行為計算を容認した場合と、本来あるべき適正な行為計算を行った場合との税額の差額が、社会通念上看過できないほど大きい |
「同族会社の行為計算否認」に係る判例
「同族会社の行為計算否認」は、「不当性」の判断が個別具体的なに大きく依存するため、多くの裁判例があります。その中でも、特に著名であり、その後の解釈や実務に大きな影響を与えたものを税目ごとにそれぞれご紹介します。
法人税:最高裁判所 昭和53年4月21日第二小法廷判決(光楽園旅館事件)
●事案の概要
同族会社の代表取締役等が共有する土地と、その同族会社がその土地を賃借して所有していた建物を一括して第三者に売却した際に、会社が譲渡代金の一部を計上しなかったことに対して、国税当局が法人税法132条1項を適用した事案です。会社は、土地の売却益を計上しなかったことで法人税の負担を軽減しようとしました。
●主な争点
同族会社の行為計算が、法人税法132条1項にいう法人税の負担を不当に減少させる結果になると認められるものに該当するかどうか。特に、経済的実態と形式との乖離が問題となりました。
●最高裁の判断(要旨)
最高裁は、行為計算を容認すれば法人税の負担を不当に減少させる結果となると判断し、法人税法132条の適用を認めました。 判決では、その行為や計算が、客観的・経済的に見て不自然、不合理なものであるかどうかという観点から判断すべきであるという基本的な考え方が示されました。具体的には、この事案のように、本来会社に帰属すべき所得を不意に個人に帰属させるような行為は、経済的実態に即していない不当な行為であるとされました。
所得税:最高裁判所 平成16年7月20日第三小法廷判決(平和事件)
●事案の概要
パチンコ機器メーカーの創業者(個人)が、自身が株式の大部分を保有する同族会社に対して、巨額の資金を無利息・無期限・無担保で貸し付けたことに対し、国税当局が所得税法157条を適用して、本来受け取るべきであった利息相当額を雑所得と認定し、所得税の更正処分と過少申告加算税の賦課決定を行った事案です。
●主な争点
個人から同族会社への無利息貸付が、所得税法157条にいう所得税の負担を不当に減少させる結果となる行為に該当するかどうか。
●最高裁の判断(要旨)
最高裁は、所得税法157条1項の不当に減少させる結果とは、経済的、実質的にみて不自然、不合理な行為又は計算であって、それによって所得税の負担を不当に減少させる結果となるものをいうと判示しました。 そして、無利息貸付については、以下の点を指摘して、所得税法157条の適用を認めました。
・通常、独立した第三者間で行われる資金貸借では、相当の利息を付するのが合理的である。
・貸付が無利息で行われたのは、個人が会社の株式の大部分を保有し、かつ、代表取締役であるという、まさに同族会社であるからこそ可能であった。
・無利息貸付によって、個人は利子所得を計上せず、結果として所得税の負担が不当に減少した。
相続税:大阪地判平成12年5月12日
●事案の概要
被相続人が、当時83歳で余命わずかであったにもかかわらず、自らが保有する土地を駐車場として経営する目的で同族会社を設立し、その土地に60年間の地上権を低額な地代で設定しました。この行為に対し、国税当局は、この地上権設定は、相続税の負担を不当に減少させる目的で行われたものであるとして、相続税法64条の行為計算否認規定を適用し、地上権設定がなかったものとして相続財産を評価し直しました。
●主な争点
・高齢で余命わずかな被相続人が行った取引に、行為計算否認規定は適用されるか。
・低額な地代での地上権設定は、「不当に減少させる」行為計算に該当するか。
・事業目的で会社を設立したという形式的な理由をもって、否認規定の適用を免れることができるか。
●最高裁の判断(要旨)
・相続税法64条は、同族会社を利用した契約等の行為計算が、相続税の負担を不当に減少させる結果となると認められる場合に適用される。
・地上権設定は、被相続人が高齢で余命わずかであったこと、及び地上権設定の地代が周辺の相場と比較して著しく低額であったことなどを考慮すると、合理的な経済行為とは認められない。また、事業目的で会社を設立したという形式的な行為は、実質的な相続税負担の減少を目的としたものと評価されるべきである。したがって、相続税法64条の適用要件を満たし、課税処分は適法であると判断しました。
「同族会社の行為計算否認」の適用を受けないために
「同族会社の行為計算否認」の適用を避けるためには、以下の3つのポイントを意識してください。これらの点を意識することで、否認規定の適用リスクを減らすことができます。
①取引は経済的に合理的か
同族会社とその株主・役員間の取引(例えば、不動産の売買・賃貸、役員報酬、貸付金など)は、独立した第三者との取引と同じように、市場価格や一般的な条件に基づいて適正な価格設定をします。不当に安い(高い)価格設定や、無利息の貸付などは否認の対象になりやすいです。
②事業目的を明確にする
取引が、税金対策のためだけでなく、会社の事業にとって合理的な理由があることを説明できるようにしておきます。例えば、「コスト削減のため」「事業拡大のため」など、経営上の必要性を示すことが重要です。不自然な取引や明確な事業目的がない取引は否認されやすくなります。
③客観的な証拠を残す
取引の正当性を証明するために、契約書、議事録、価格算定の根拠資料などをきちんと作成し、保管しておきます。特に、複雑な取引や金額が大きい取引ほど、その意思決定のプロセスや合理性を裏付ける証拠が重要になります。

監修者プロフィール
川口 誠(カワグチ マコト)
国税局では高度な調査力が必要とされる調査部において、10年以上にわたって上場企業や外国法人等の税務調査に従事する。また、国税庁においては、全国の国税局にある調査部の監理・監督を行い、国税組織の事務運営にも携わる。
略歴
平成24~28年 東京国税局 調査第四部各調査部門、調査第一部調査管理課
平成29~30年 国税庁 調査査察部 調査課
令和元~5年 東京国税局 調査第一部 国際調査課、国際調査管理課、広域情報管理課
令和6年 ON税理士法人と業務提携
実績
中小企業から上場企業等まで100以上の会社の税務調査を行う。
メディア・著書
「元国税の不動産専門税理士が教える!不動産投資 節税の教科書」
資格・免許
税理士
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