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2025.11.25 税務コラム

国税組織の全貌を解説!国税庁・国税局・税務署の仕事、国税専門官の役割とは?/税務コラム~[vol.024]

国税組織の全貌

納税者と国の財政をつなぐ国税組織。その仕事は「マルサ」のイメージが強いかもしれませんが、実は約5万6千人もの職員が、それぞれ異なる重要な役割を担っています。この記事では、国税庁の全体像から、各部署の役割、職種・役職、そして国税組織で働くためのキャリアパスまで、その全貌をわかりやすく解説します。

CONTENTS

巨大組織!国税組織の機構と定員

国税組織の定員(人数)は56,018人です(令和7年3月財務省定員規則改正)。従業員数が多い日本企業は、1位がトヨタ自動車で約7万人、2位がパナソニックで約6万人と、それに次ぐ多さとなっており、巨大組織であることがわかります。


この巨大な国税組織は、以下の5つの主要な機関によって構成され、それぞれが異なる役割を担い、日本の税務行政を支えています(括弧書きは定員数で国税庁レポート2025より)。これらの機関が連携することで、全国一律かつ適正な税務運営が実現されています。


国税庁(1,135人)


国税庁は、日本の税務行政の中枢を担う機関です。税務行政の企画・立案、税制改正に関する意見具申、法律や通達の解釈・作成、そして全国の国税局・税務署の監督指導を行います。組織全体の方向性を決定し、統一的な税務行政が実施されるよう、司令塔の役割を果たしています。


国税庁は、長官官房、課税部、徴収部、調査査察部などの主要な部署で構成されています。特に、課税部は所得税、法人税、消費税など主要な税目に関する法令解釈や事務運営の指針を定め、調査査察部は大規模事案への対応や悪質な脱税対策を担当するなど、税務行政の根幹に関わる業務を所掌しています。


税務大学校(329人)


税務大学校は、国税職員の育成を専門に行う機関です。採用されたばかりの新人職員だけでなく、経験年数に応じて専門研修や階層別研修を実施し、職員の知識とスキルの向上を図っています。ここでは、税法、会計学、語学など、税務調査や徴収業務に必要な専門知識を体系的に学ぶことができます。


研修は、基礎的な法律知識から、国際取引に関する税務、情報技術(IT)を活用した調査手法、さらにはコミュニケーション能力の向上に至るまで多岐にわたります。職員のキャリアを通じた継続的な学習の場を提供することで、税務行政の質の維持・向上に不可欠な役割を担っています。また、海外の税務職員を対象とした研修も行っており、国際的な税務協力にも貢献しています。


国税不服審判所(464人)


国税不服審判所は、納税者が税務署や国税局の処分に不服がある場合、その審査を行う機関です。納税者からの不服申し立て(審査請求)を受け付け、公平かつ中立な立場で事実関係を調査・判断します。この機関の存在は、税務行政の適正性を担保する重要な役割を果たしています。


審理は、書面審理だけでなく、必要に応じて納税者や代理人からの意見聴取も行われます。国税組織の一部でありながらも、その判断は行政処分とは独立した中立的な立場で行われます。この公平な審査を通じて、納税者の権利利益の保護と、税務行政に対する国民の信頼維持に貢献しています。


国税局(17,724人)


国税局は、全国に11局設置されており、広域的な税務調査や税務署の監督指導を行います。調査部では、大規模な法人や国際的な取引を行う企業などを調査します。また、悪質な脱税事件を強制調査する査察部(マルサ)や、資料調査課、特別国税調査官など、高度な専門性を持つ部署も置かれています。


税務署(36,366人)


全国各地にある税務署は、国税組織の最前線として、納税者と直接向き合う機関です。定員数の内訳からもわかるように、国税組織全体の約3分の2を占めています。個人の確定申告や法人の申告書の受付、納税相談、税務調査、滞納処分など、日常的な税務行政の中心を担います。国民生活に最も身近な存在であり、円滑な税務運営に不可欠な役割を担っています。


国税組織で働く4つの職種

国税組織では、その業務内容に応じて、主に以下の4つの職種が活躍しています。後述の採用試験で国税専門官として採用された職員も、研修を経て、これらの職種に就くことになります。


国税調査官


納税者の提出した申告書などの内容に誤りがないかを確認します。個人や会社を訪問し、帳簿や書類を調べたり、話を聞いたりして、申告内容の正しさを調査します。


調査官の仕事は、単に間違いを探すことだけではなく、納税者に適正な申告を促し、税法の正しい理解を広める側面もあります。彼らには会計知識と税法解釈能力が求められます。調査の結果、申告漏れや不正が発見された場合は、修正申告を勧奨したり、更正処分を行ったりします。


国税実査官


国税局にある資料調査課などに所属する職員の名称です。税務署では対応が難しい、大口の納税者や悪質な脱税が疑われる事案を対象に、実地調査や情報収集を行います。


実査官は、広範囲かつ複雑な事案を扱うため、より高度な分析力と洞察力が求められます。彼らは、金融機関との取引、海外との資金移動、複数の関係会社間の取引など、複雑に絡み合った経済活動を解き、課税逃れの構造を明らかにします。


国税徴収官


法律に基づき定められた納期限までに税金を納付しない滞納者に対し、税金の納付を促します。場合によっては、滞納者の財産を差し押さえるなど、強制的に徴収する業務も行います。


徴収官の仕事は、滞納者との交渉や財産の調査が中心となり、税金の公平性を保つ上で極めて重要です。しかし、生活困窮者などには、状況に応じて納税の猶予や分納の相談に応じるなど、単に強制力を行使するだけでなく、社会的な配慮も求められます。


国税査察官


いわゆる「マルサ」と呼ばれる、悪質・巧妙な脱税を摘発する専門職種です。強制調査権(裁判官の発行する令状に基づく)を持っており、脱税犯の自宅や事務所に立ち入って証拠を収集し、犯罪事実を解明します。


査察官は、脱税事件の捜査を通じて、経済犯罪の抑止と、税法の遵守意識の向上に貢献しています。彼らの調査は、緻密な情報分析と大胆な実行力を伴い、しばしばドラマや映画の題材にもなるほどです。摘発された事案は検察庁に告発され、刑事罰が科されることになります。


国税組織の役職・キャリアパス

国税組織の役職は、主に「事務官」から始まり、専門性や管理職としての責任に応じて昇進していきます。以下は、一般的な役職と序列を整理したものです。昇進は、勤務成績や研修の修了等によって決定されます。


事務官・事務員


国税組織の最も基本的な役職です。税務署の窓口業務や、申告書のデータ入力など、比較的定型的な業務を担当します。採用ルートによっては、この段階から専門職としての知識を深めるためのOJT(On-the-Job Training)が始まります。


係長・国税調査官


係長(内勤業務の管理職)は、複数の事務官や事務員をまとめる役職です。国税調査官は、税務調査を行う専門職です。納税者の帳簿や書類をチェックし、申告内容に誤りや不正がないかを調査します。この段階で、国税調査官としての実務経験と、将来の管理職としての資質が培われます。多くの職員が、この役職で税務のスペシャリストとしての土台を築きます。


上席国税調査官・統括国税調査官


上席国税調査官は、国税調査官の中でも経験が豊富で、より複雑な案件を担当します。統括国税調査官は、複数の国税調査官を指揮・監督する管理職です。特定のチームを率いて税務調査を指揮します。統括国税調査官は、税務署内の部門の責任者として、調査の方向性決定や部下の指導育成など、重要なマネジメント業務を担います。


特別国税調査官・副署長・署長


特別国税調査官は、特定の専門分野(国際税務、大口法人など)に特化した高度な調査を行う役職です。副署長は、署長を補佐し、税務署全体の業務を管理します。署長は、税務署の最高責任者であり、税務署の運営全体を統括します。さらに上級の役職として、国税局の部長、国税庁の課長、そして国税局長というキャリアパスが拓かれています。


国税組織で働くための4つの採用ルート

国税組織で働くための門戸は広く開かれており、個人の学歴や専門性、キャリアに応じて複数の採用ルートが用意されています。


国家公務員総合職採用試験


「キャリア官僚」として国税庁の中枢を担うことを目指すルートです。主に行政や法律、経済分野の専門家として、国税に関する企画立案や税制の改正などに携わります。採用人数は少なく、難関な試験です。採用後は、国税庁本庁での勤務が多くなり、日本の税務行政の方向性を決める政策決定プロセスに関わることになります。


国税専門官採用試験


「国税専門官」として採用されるための試験です。税務署や国税局に配属され、税務のスペシャリストとして、個人や会社の申告内容を調査・指導する「国税調査官」、滞納された税金の徴収を行う「国税徴収官」、悪質な脱税を摘発する「国税査察官」などの仕事に従事します。大卒者を対象とした試験で、専門的な知識と実務能力が求められます。採用後、税務大学校で約1年間の専門研修を受けた後、各部署に配属されます。国税組織の中核をなす職員であり、そのキャリアは現場での実務経験を通じて形成されます。


税務職員採用試験


主に高校卒業程度の学力を対象とした試験です。採用されると「税務職員」として税務署に配属され、窓口での納税相談や申告書のチェックなど、税務の基本的な業務からスタートします。採用後は、税務大学校で初期研修を受け、税務の基礎を学びます。実務経験を積み重ねることで、国税専門官と同様に昇進していくことが可能です。


国税庁経験者採用試験


民間企業などでの職務経験を持つ人を対象とした試験です。国税庁が求める特定の専門知識やスキル(例えば、国際税務や情報システムなど)を持つ人材を中途採用する目的で行われます。近年では、デジタル技術の進展に伴い、ITスキルを持つ人材の採用も強化しています。


川口 誠(カワグチ マコト)

監修者プロフィール

川口 誠(カワグチ マコト)

国税局では高度な調査力が必要とされる調査部において、10年以上にわたって上場企業や外国法人等の税務調査に従事する。また、国税庁においては、全国の国税局にある調査部の監理・監督を行い、国税組織の事務運営にも携わる。

略歴
平成24~28年 東京国税局 調査第四部各調査部門、調査第一部調査管理課
平成29~30年 国税庁 調査査察部 調査課
令和元~5年 東京国税局 調査第一部 国際調査課、国際調査管理課、広域情報管理課
令和6年 ON税理士法人と業務提携

実績
中小企業から上場企業等まで100以上の会社の税務調査を行う。

メディア・著書
「元国税の不動産専門税理士が教える!不動産投資 節税の教科書」

資格・免許
税理士

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