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2026.03.24 税務コラム
法人契約の生命保険はどう変わった?損金算入制限と解約返戻金の課税ルール/税務コラム~[vol.028]
法人契約の生命保険は、中小企業の資金運用や福利厚生に活用される一方、近年の税制改正により損金算入や解約返戻金の課税ルールが大きく変わっています。
本記事では、法人生命保険の基本と改正の影響、会計・税務上の実務対応までをわかりやすく解説。
最新制度を理解し、税務リスクを回避しながら、リスクを抑えた契約設計のポイントを確認します。
法人生命保険の概要と利用目的
法人契約の生命保険とは
法人契約の生命保険とは、会社が契約者として加入し、保険料を支払う生命保険を指します。契約者は法人であり、被保険者は役員や従業員であることが一般的です。
法人契約の生命保険には大きく分けて二つの目的があります。
一つは福利厚生・従業員保障としての役割、もう一つは財務・税務戦略の一環としての活用です。
前者は、従業員やその家族の生活を守ることを目的とするもので、会社の社会的責任(CSR)や従業員満足度向上に寄与します。後者は、法人税の計算上、支払った保険料を損金算入できる可能性があることから、節税対策や資金運用の手段としても利用されます。
しかし、税制改正が相次ぐ中で、単に高額な保険料を支払うだけでは課税リスクを招くこともあります。
税制改正が法人生命保険に与える影響
法人生命保険は、過度な節税目的の利用を防ぐため、何度も税制改正の対象となってきました。
改正の主な焦点は、損金算入の範囲、解約返戻金への課税、名義変更時の評価方法です。
これにより、単に保険料を支払うだけでなく、契約設計や会計処理において、解約時の益金算入を見越した精緻な計画が求められるようになってきています。
過去の税制改正の経緯
近年の改正内容を整理すると、国税当局が極端な節税スキームをどのように制限してきたかが分かります。
損金算入ルールの見直し(2019年)
2019年改正では、法人が契約する生命保険の損金算入の方法が大きく見直されました。
それまで定期保険や医療保険などは契約形態によっては全額損金算入できる場合がありましたが、改正後は最高解約返戻率に応じて損金算入の割合が制限されるようルールが一本化されました。
・最高解約返戻率50%超〜70%以下:保険期間の当初4割の期間、保険料の40%を資産計上
・最高解約返戻率70%超〜85%以下:保険期間の当初4割の期間、保険料の60%を資産計上
これにより、高額な保険料を支払うだけで法人税を圧縮するような節税スキームは原則として利用できなくなり、契約設計時には返戻率や将来の解約返戻金を考慮した慎重な計画が求められるようになりました。
名義変更・契約譲渡時の評価ルール明確化(2021年)
2021年の税制改正により、法人保険の名義変更を利用した節税スキームが厳格化されました。
改正前は、低解約返戻金型保険の解約返戻金が一時的に極端に低くなる期間を狙い、法人が役員等へ保険契約を譲渡する手法が横行していました。
まず法人側は、多額の保険料を支払い資産計上して、あえて解約返戻金が低い時期に名義変更(譲渡)を行います。
この際、帳簿上の資産価額と譲渡価格(低額な返戻金)との差額を「資産譲渡損」として計上できるため、その期の法人税を大幅に圧縮できるメリットがありました。
次に受け取る個人側(役員等)は、譲渡価格は低い解約返戻金が適用されたため、多額の含み益がある保険を格安で取得できました。
この段階では返戻金は時価での正当な売買とみなされ、個人に課税されなかったのです。さらに、後に個人が多額の返戻金を受け取る際は、給与所得課税よりも税負担が軽い一時所得の計算ルールが適用されるため、非課税をうける形での所得移転が可能となっていました。
このように、法人から個人へ実質的な資産(退職金原資など)を、法人税と所得税の両面で抑えながら移転できる点が最大の魅力でした。
しかし改正後は、名義変更時の解約返戻金が資産計上額の7割未満である場合、低い返戻金ではなく資産計上額で評価するよう定められました。これにより、格安で譲渡した差額分は個人への給与所得(利益)とみなされて課税されるようになり、法人側で意図的に大きな譲渡損を作ることも困難になったため、節税メリットは消失しました。
現在、法人が契約を譲渡する際は、この7割ルールを前提とした事前の課税リスクを考慮する必要があります。
現行制度のポイント
現在の実務において、特に押さえておくべき課税関係は以下の通りです。
保険料の損金算入と解約返戻金の課税
損金算入額は期間や返戻率に応じて計算されます。短期の定期保険は比較的損金算入が容易ですが、解約返戻金が大きくなる長期保険では、損金算入割合が制限されます。
そして、受け取った返戻金から、これまでに資産計上していた保険料積立金を差し引いた額が益金として課税対象となります。この出口での納税資金をあらかじめ考慮しておくことが、キャッシュフロー管理の要です。
保険金受取時の法人税の取り扱い
死亡保険金を受け取った場合、原則として全額が益金に算入されます。役員死亡時の退職金として支払うなど、出口での経費とセットでシミュレーションすることが不可欠です。
税制改正の実務への影響
中小企業の財務戦略への影響
中小企業にとって、法人生命保険は資金運用や節税策の一環として活用されることが多いですが、現行制度では損金算入が限定されるため、過度な節税は難しくなっています。
そのため、生命保険契約を財務戦略に組み込む際は、損金算入割合や解約返戻金の推移を正確に見積もる必要があります。
特に、役員退職金や事業承継資金として活用する場合には、長期的な資金計画との整合性を確認することが重要です。
会計処理・税務申告上の注意点
税制改正に伴い、特に以下の3点に注意が必要です。
①正確な損金算入割合の算出
最高解約返戻率に基づいたシミュレーションが必須です。
②資産計上の管理
長期契約の保険料を経費と資産に正しく振り分けて管理する必要があります。
③益金算入のタイミング把握
解約時や名義変更時に発生する税負担を事前に予測しておかなければいけません。
専門家が提案する対応策
税制改正の影響を最小限に抑えるため、以下のような対応策が必要です。
・過剰な返戻金計画を避け、本来の保障目的とのバランスを最適化します。
・一時期に集中させず、年度ごとのキャッシュフローに合わせて段階的に加入します。
税理士等の専門家と共に、最新の税制に適合しているか定期的にチェックを行います。
法人契約保険の注意点
過去の改正を振り返ると、国税当局は過度な節税や利益操作を徹底して防ぐ方向にあります。
今後は、単なる節税ツールとしてではなく、「長期的な資金計画」「福利厚生」「事業承継」の三つの観点から、バランス良く保険を活用することが求められます。
最新の税制動向を把握しつつ、専門家と連携して慎重に設計することが、リスクを抑えた健全な企業経営の鍵となります。
監修者プロフィール
川口 誠(カワグチ マコト)
国税局では高度な調査力が必要とされる調査部において、10年以上にわたって上場企業や外国法人等の税務調査に従事する。また、国税庁においては、全国の国税局にある調査部の監理・監督を行い、国税組織の事務運営にも携わる。
略歴
平成24~28年 東京国税局 調査第四部各調査部門、調査第一部調査管理課
平成29~30年 国税庁 調査査察部 調査課
令和元~5年 東京国税局 調査第一部 国際調査課、国際調査管理課、広域情報管理課
令和6年 ON税理士法人と業務提携
実績
中小企業から上場企業等まで100以上の会社の税務調査を行う。
メディア・著書
「元国税の不動産専門税理士が教える!不動産投資 節税の教科書」
資格・免許
税理士
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